ライフル射撃

礒部 直樹 Naoki Isobe

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2020.02.07

可能性がある限り諦めない

ライフルを初めて持ったのが高校1年のとき。あれから25年経った今も第一線で活躍する礒部直樹。現在の肩書は日本ライフル射撃協会参事、日本代表選手強化副委員長兼コーチ、大分県競技力向上スーパーコーチなど数えきれないが、今も現役選手としてトップレベルにいる。2019年12月に発表された国内ランキング「50mライフル伏射男子(FR60PR)」では、6位にランクインした。三足も四足も草履を履く礒部に休みはない。「正直しんどいです」が本音だ。

 

ライフルで夢や感動を与えたい

選手として、指導者として数多くの経験がある礒部に教えを請いにくる教え子は、日本代表のトップ選手から高校生まで後を絶たない。門下生は増え続ける一方だが、それでも指導を辞めないのは、職場や家族の理解はもちろんだが、ライフル射撃が心底好きなのだ。 「自分の経験を隠すつもりは一切ない。ライフルは日本ではマイナー競技だが、オリンピックでメダルを取れば状況は変わる。冬季オリンピックでスピードスケートの小平奈緒さんやカーリング日本代表が一気に注目を集め、国民がその競技に興味を持つようになった。僕はライフルで夢や感動を与えたいと本気で思っている」 礒部にとって注目を集めるのは自分であっても他の選手でも構わない。ライフル射撃という競技にスポットが当たってほしい。その思いは変わらない。

 

父親がライフル射撃の国体選手であったこともあり、「ちょっとやってみようか」と軽い気持ちで始めた。ボクシング部に入ろうとしていた血気盛んな少年は、初めての大会で「同学年の見るからにひ弱そうな選手に負けた」。自他ともに認める超がつくほどの負けず嫌いが燃え上がるのは簡単だった。そこから勝つために必要なことを考えて練習するようになった。持ち前の集中力と研究熱心さが奏功し、メキメキと実力をつける。高校3年時には全日本高校選手権やジュニアオリンピックカップで大会新記録を打ち出した。当時、高校生で初めて日本代表に選出され、期待の逸材と周囲から注目を集めた。

 

大学進学後も浮き沈みはあったが、結果を出し続け、国際大会にも出場。社会人になってからも競技意欲は衰えることなく突き進む。全日本選抜や全日本選手権、全日本社会人選手権を連覇し、アジア大会でもメダルを獲得するなど結果を出したが、オリンピックは遠かった。

 

パリ五輪は選手として目指す

自国開催の東京五輪は選手として挑戦したかったが、日本ライフル射撃協会や代表選手からの強い要望があり、サポート役に回る決心をした。「与えられた場所でベストを尽くす」と、日本代表がメダルを獲るために裏方に徹する。ただし、次のパリ五輪に選手として出場するための準備期間と考えている。礒部は「指導者の立場として得ることが多いから」という。自分なりに実践し、検証し、理解することがインプットであるのならば、経験を咀嚼(そしゃく)して伝えることがアウトプットになる。「アウトプットすることで、また自分にフィードバックができる」。この一連の流れは自分の成長のためにも効率がいいようだ。

 

今も第一線で競技を続ける理由は「自分には可能性がある」と断言できるからだ。オリンピックイヤーとなる昨年末の日本代表合宿では、選手の練習が終わった後に新しい道具を使って試技した結果、自己記録が出た。「確信はあった。選手として練習時間はほとんどなかったが、指導しているときに理論をまとめていたし、実践したかった」とニヤリと笑う。 ライフル射撃は、制限時間内に決められた弾数を撃ち、その的中した合計点数で勝敗を争う。競技には同じ動作を正確に繰り返し、成功させることが求められる。的に向かって何発も同じように正確に的に当てるには“再現性”を高めることが必要とされるため、多くの選手は道具を変えることを恐れる。しかし、礒部は「目の前に小石があれば大きく見えるけど、遠くから見れば小石は小石。大事なのは気持ち。小さな変化に怖がることはナンセンス。変える勇気が必要」と変化をチャンスと捉える。

 

「成長できるアイデアがあるのなら挑戦しないのはもったいない」。これまで培った経験がそう思わせるのだ。礒部にとって引き際は「自分が自分の可能性を信じられなくなったときだ」という。指導者としても「正しいと思っていた理論や情熱、経験を伝えようとして、それが伝わらなかったり、選手が僕を不要と感じたときはすぐに辞める」とはっきりした基準がある。常に張り詰めた風船のまま四半世紀が過ぎたが、「選手に専念できればパリ五輪出場は十分可能性がある」と話す礒部自身が誰よりも自分の可能性を感じている。「ライフルは採点競技でもなければ、対人と競う競技でもない。勝っても負けても自分に責任がある。全てが自分次第。練習すれば強くなるし、手を抜けば弱くなる。努力は裏切らない」。信念を貫き、前に進む。

礒部直樹の哲学

変化を恐れずチャンスと捉える

プロフィール

生年月日 1978年12月23日
出身 福岡県飯塚市出身
身長/体重 169cm/73kg
成績
  • 2007年 全日本選抜ライフル射撃選手権大会/優勝
  • 2010年 第65回国民体育大会千葉/優勝
  • 2011年 第66回国民体育大会山口/優勝
  • 2013年 全日本選手権/準優勝
  • 2019年 夏季ライフル&ピストル射撃競技広島大会/優勝
  • 2020年 2020年度全日本ライフル射撃競技大会/優勝
  • 2022年 第48回全日本ライフル射撃競技選手権大会(300㍍)/優勝
    栃木国体 50㍍ライフル伏射/3位
    全日本ライフル射撃選手権大会(50㍍ライフル)/4位