フェンシング

江村 美咲 Misaki Emura

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自分の価値を高める戦いは続く

フェンシング・サーブルの江村美咲が東京オリンピックの出場権を獲得した。「自分の価値を高めたい。東京オリンピックで金メダルを取って、自分だけでなく、後輩たちにも新しい可能性を見せたい」。女性プロアスリートの道しるべとなるために、結果を出し続け、フェンシングの魅力を発信していく覚悟が、江村にはある。日頃の言動ひとつにも気を配り、質問に対しても自分の思考を自分の言葉で紡ぐ。自国開催となるオリンピックで華やかなシンデレラロードを思い描く―。

 

勝つ喜びを知り、自信を深める

江村とフェンシングの出合いは必然だった。日本代表の選手だった両親の影響を受け、小学校3年生の時に競技を始める。当初はフルーレを専門としていたが、中学に上がる直前に出場した大会で、サーブルに出場して優勝。勝つ喜びを味わい、種目を転向した。

フルーレ、エペが「突き」のみなのに対し、サーブルは「斬り(カット)」があり、ダイナミックな攻防に魅了された。「この年代で楽しいのは勝つこと」と、フルーレでは味わったことのない成功体験が、自他共に認める負けず嫌いの女の子には心地よかった。JOCエリートアカデミーの同年代の選手と肩を並べるには3年ほど要したが、中学3年の時に世界カデ(14歳以上17歳以下)サーキット選手権ロンドン大会で優勝してからは、舞台が世界に広がった。「日本人が優勝することは絶対にないと言われていた世界大会で、優勝できたことが大きな自信になった」

 

高校から日本のトップが集まるJOCエリートアカデミーに所属し、最高の環境と最高のライバルたちと剣技を磨いた。この頃から現日本代表コーチのリー・ウッチェに指導を仰ぎ、揺るがない基礎技術を培った。「最初は文化の違いなど受け入れることができないことが多く、反抗ばかりしていた」。納得できる練習をしないと試合では通用しない。この思いは今も変わらない。ブレない芯の強さが江村の武器でもある。衝突を恐れず何度もぶつかり、互いに意見を交わし、納得してから練習するからこそ身につく技術は多い。170㌢の体躯を自由自在に操り、対戦相手の映像を細かく分析し、相手の一瞬の隙も見逃さず多彩な技を繰り出す。相手との間合いを取った状態から一気に仕掛けるロングアタックは江村の代名詞となる。

 

先駆者として道を拓く

数々のアジアや世界の大会で個人、団体で表彰台に上がった。手にしたメダルの数は、まさに「日本のエース」と呼ぶにふさわしい。ただ、この呼称を江村は嫌う。「エースって何だろう。団体戦では最後に出るだけだし、私が日本を引っ張っているわけではない。国内では追われる立場になることもあるけど、そうは思いたくない。挑戦者であり続けたい」

 

挑戦者であり、開拓者でもある江村は、ピスト(コート)から離れても変わらない。中央大学に進学を決めたのは、「男子は実績があったけど女子部員は少なく、結果も出ていなかった。自分が強くしたかった」と女子フェンシングの強豪大学からの推薦を断った。来春の卒業を控え、周囲が就職活動を始めても、「女性プロアスリートとしての道をつくりたい」と所属契約を見送り、自らスポンサーを探し、競技に専念できる環境を手にするために、どれだけ自分を高く売ることができるか交渉する。否が応にも「自分の価値」を考え、企業に協賛メリットがあると思わせなければいけない。大変だけど悲壮感はない。「応援されて、好きな競技をやれるのは幸せなこと。フェンシングからいろいろなものを得たので恩返しをしたい。私にできることは結果を出し、活躍して、子どもたちに夢を与えられる選手になること。そして、後輩たちが進路に悩まず、当たり前にオリンピックを目指す環境をつくること」

2018年・19年に全日本フェンシング選手権大会を連覇、世界では20年3月のW杯ギリシャ大会において、個人 銅メダルを獲得した。W杯表彰台は18年W杯アメリカ大会個人 銀メダル獲得以来の2回目。日本女子サーブル選手では初の複数メダル獲得者となった。

 

東京オリンピックの出場を手にし、先駆者として走り続ける江村は、真っ赤なグロスを唇に塗り、日の丸のついた白地のユニフォームを身にまとう。晴れ舞台に立つ凛々しい姿をセルフプロデュースし、周囲の目を引くためのパフォーマンスだ。

「フェンシングの魅力は見た目のかっこよさ。ダイナミックだが繊細な動作の差で勝敗が分かれる。ミリ単位の動きを追求し、派手な技で勝てば最高」

東京オリンピックでは自らプレッシャーを掛け、多くの人にフェンシングと江村美咲という女性アスリートの存在をアピールするつもりだが、メダルを獲ることで全てが変わるとは思っていない。「東京だけでなく次のパリ、ロサンゼルスもある。自分が何をしたいのか具体的なものはないけど、実現できるために結果を出し続け、自分の価値を高めたい」

女性プロアスリートの草分け的な存在に「なりたがりかもしれない」と笑顔で語る22歳は、大きな可能性に満ちあふれている。

江村 美咲の哲学

目標を実現するために結果を出し続ける

 

プロフィール

生年月日 1998年11月20日
出身 大分市
身長 170cm
成績
  • 2014年 ユース五輪(南京)大陸別混合団体で優勝
  • 2017年 ユニバーシアード大会(台北)個人優勝
  • 2018年 ワールドカップ(アメリカ)個人準優勝
    全日本選手権大会個人・団体優勝
  • 2019年 全日本選手権大会個人・団体優勝
  • 2020年 ワールドカップ(ギリシャ)個人3位