陸上(短距離)

兒玉 芽生 Mei Kodama

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逆境をチャンスと捉え、追い風に

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、東京五輪・パラリンピックの1年延期が決まった。多くのアスリートが気持ちの切り替えや調整に苦しむ中、逆境を追い風にしたのが兒玉芽生だ。「コロナで活動中止があったから好記録が出た」と言い切る。2020年10月の日本学生陸上競技対校選手権(インカレ)で女子の短距離種目とリレーで3冠を達成し、日本陸上競技選手権大会でも100メートルで優勝。100メートルの自己記録更新は日本歴代3位の11秒35となり、東京五輪出場が一気に射程圏内となった。

 

頭で陸上した2カ月間

「今年は世界への挑戦を掲げて1年間やってきた。ようやく世界への第一歩は踏み出せた」と振り返る。2020年はコロナ禍で次々と大会が中止となり、練習できない期間もあった。「いつ試合があるのか分からない状況が続き、不安や戸惑いはあった。東京五輪も延期になって1年準備ができるチャンスと捉えた」

春先の2カ月間は陸上競技場を使えなかったこともあり、外出を控えた。緊急事態宣言が解除されるまで自宅で動画系SNSの筋力トレーニングを見て実践し、日本人選手初の9秒台を記録した桐生祥秀選手の動画を何度も見ては自分の走りと重ね合わせた。「理想のフォームは? そのためには何が足りない? 何を意識すればいい?」。自問自答を繰り返し、大学の論文を読み、解決できないことはコーチに教えを乞うた。兒玉はこの期間を「頭で陸上をしていた」と言う。

 

大分雄城台高校3年時に全国高校総合体育大会女子100メートル、第72回国民体育大会(愛媛国体)少年女子A100メートルを制し、福岡大学に進学。その後の2年間も練習をこなすことが精一杯で、「自分の走り」を考えたことがなかった。コロナ禍で練習ができない日々が続き、自分の走りを見つめ直す時間に充てた。高校時代は前傾姿勢で足が前に出ず、力だけで勝負していた兒玉だが、大学では「骨盤を動かし、体を起こせ」と言われても理解できなかった。「今までは正解がわからなかったから、意識して走れと言われてもイメージできなかった。自分が思う骨盤の動かし方を桐生さんの走りと比較することで自分なりの答えが見つかった。桐生さんの走りは本当によく見た」

 

兒玉の思い描いた走りはこうだ。バランスのとれた安定感のある姿勢をつくり、そこから脚を前へ出していく。前へ出す足に重心を乗せながら進むことで、地面を蹴った瞬間に生まれる反発力を最大限に利用する。そうすれば無駄なエネルギーを使わずに走ることができる。

 練習が再開された7月には、「自分の走りが描けていたので、一本一本の走りの質が良くなった」。8月のセイコー・ゴールデングランプリに出場するために急ピッチで体を仕上げなければいけなかったが、頭の中で準備できていたので焦りはなかった。「正解が分かっているので立て直すのも難しくはなかった。今までは何が悪いかわからず、立ち返る場所がなかった。今ははっきりと分かる」。今までは感覚が全てと思って走っていたが、今は理路整然と解析できる理論派と変貌した。

 

東京五輪は射程圏内

快進撃はセイコー・ゴールデングランプリの女子100メートル優勝から始まる。10月の日本学生陸上競技対校選手権(インカレ)の女子100メートルでは、日本歴代3位となる11秒35の好記録で優勝し、200メートル、リレーで3冠を達成。続く日本陸上選手権の女子100メートルも制し、シンデレラストーリーを駆け上がる。

「インカレで3冠獲って、日本選手権まで2週間しかなかったけど、10社ぐらいの取材が来て困った。でも強い選手はそんなことも乗り越える力があるし、使命だと思う。これから取り巻く環境が変わっていくかもしれないけど、期待に応えるために背伸びはしたくない。自分を見失わずにやることをやって、結果的に期待に応える選手になりたい」

 

屈託のない笑顔は幼い頃から変わらない。足が速く、男子にも負けなかった少女は小学3年で陸上を始め、5年時に全国大会で優勝。「かけっこ」から「短距離走」を意識するようになった。その才能に惚れ込み、多くの指導者が大きな期待を寄せた。兒玉はこれまで「チーム大分の先生方に恩返しをしたい」と結果を出し続けた。オリンピックイヤーとなる来年は否が応にも注目を集める。「昨年までは東京五輪の女子リレーも目指せない状況で諦めの方が大きかったけど、今年は結果が出てチャンスができた。プレッシャーのかかった大会で安定して11秒3を出せばワンチャンあると思っている。まずは東京五輪を目指し、次のパリ五輪では出場するのではなく、戦いに行けるようにしたい」 兒玉の瞳は、その意志を映すように輝きを増している。

「今はもっと速く走れると自分に言い聞かせている。スタートラインに立てば自分ひとりだけど、孤独だと思ったことはない、応援してくれる人たちがいるから。短距離走はやってきたことしか結果に出ない競技。10秒の勝負なので相手のプランがどうだとか意識できない。それぐらい一瞬。でも、その一瞬が楽しい」 東京五輪に向けた戦いはすでに始まっている。自分の理想とする走りを信じ、ひたすら走り続けるつもりだ。

兒玉芽生の哲学

ピンチをチャンスに変える

 

プロフィール

生年月日 1999年6月8日
出身 臼杵市
身長 160cm
成績
  • 2017年 秩父宮賜杯全国高等学校陸上競技対校選手権大会 女子100m 優勝
  • 2017年 国民体育大会(愛媛国体)少年女子A100m 優勝
  • 2019年 日本陸上選手権女子200m 優勝
  • 2020年 日本陸上選手権女子100m 優勝