テコンドー

長野 聖子 Nogano kiyoko

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2020.01.31

自分が一番強いと信じ、証明する

「足技最高の格闘技」「足のボクシング」と称される足技主体の格闘技テコンドー。2000年のシドニー五輪から正式競技に採用され、東京五輪で6回目となる。国技とする韓国をはじめ中国や台湾といった東アジア勢、最近は格闘技人気の高いヨーロッパ勢を向こうに回し、東京五輪でのメダルを狙うのが女子49㌔級の長野聖子(J:COM大分ケーブルテレコム)だ。全日本選手権大会2連覇、ジャカルタ・アジア大会出場の実力者は、世界各国であるオープン大会に出場し力をつけてきた。2月の日本代表最終選考会で優勝すれば、東京五輪出場権を獲得できる。

 

蹴り技の美しさに魅了

身長170㌢の長野の本来の階級は53㌔級だが、オリンピックにはその階級がないため49㌔級で勝負しなければならない。年末から徐々に減量し、大会3週間前から一気に絞る。「食べる量を減らして汗をかく」。長野は事もなげに語るが、空腹で眠れないこともある。それでも取材時は背筋をピンとまっすぐ伸ばし、凛とした立ち姿で弱音を吐くことはない。「4年に1度の五輪、それが東京である。巡り合わせに運命を感じる」。東京五輪への並々ならぬ思いが伝わる。

 

幼い頃からテコンドー一筋。毎日外で遊ぶ活発な女の子は、師範である父の道場について行ったのが4歳の頃。本人の記憶はあいまいで、「物心ついた時はテコンドーをやっていた。遊びの一つだった」。蹴り技の美しさに魅了され、稽古を続けるうちに自然と実力がついた。体は大きく、運動神経抜群。バレーボール部やバスケットボール部から勧誘されたことは一度や二度ではないが、「テコンドー以外は考えられなかった」と道を逸れることはなかった。初めて日本一になったのは小学3年のジュニアの全国大会。その後も数々の賞状やトロフィーが並んだ。中津北高校時代にはジュニアの日本代表になり、将来を渇望された長野は卒業とともに本場・韓国の東亜大学に進学し、初めての挫折を味わう。

 

日本では大柄な選手であったが、韓国では標準。「体力やスピードには自信があったが、全く通用しない。基礎レベルの次元が違って練習にもついていけなかった」。初めての寮生活、しかも異国の地。言葉の壁や文化、風習の違いに戸惑うことも多かったが、練習量に心身ともに疲弊した。毎朝7時から2時間、夕方は18時から2時間、そして夜間練習1時間の3部練習。3年間、必死に食らいついたが、「体力はついたけど、成長することはできなかった」とテコンドーを辞めた。当初は開放感で大学生活を楽しもうと思っていたが、頭からテコンドーが離れることはなかった。SNSでテコンドーの動画を見る時間が日に日に長くなり、技を研究する自分に気付きハッとした。「もう一度、テコンドーをやりたい」。素直に思えた。

 

最後は精神力

帰国した後にタイ代表のコーチ経験もある金載祐さんに指導を仰ぐ。「3カ月間、俺の指示通りに練習しなさい」と金コーチに言われ、長野はついていった。他に選択肢がなかった。「自分が一番強いと自信を持って練習しなさい。もっと強くなれる」と練習のたびに言われて、その気になったという。復帰から3カ月後の全日本選手権に出場して初優勝。「このコーチについていけば強くなれる」。そう思えるようになってから長野は飛躍的に成長した。一番の理解者であり、指導者でもある金コーチに出会ったことで、指示待ちから、自分で考えて行動するようになり、テコンドーが楽しくなったという。「この練習の意図は?」「今の自分に足りないものを考え、どんな練習が必要なのか?」。分からないことがあればコーチに質問し、的確な答えが返ってくる。2016年12月から始まった二人三脚は今も続く。

 

大らかでマイペースな性格は変わらないが、テコンドーになるとスイッチが入る。毎日の厳しい練習を投げ出すこともない。体力や技術だけでなく、戦略と駆け引きを学び論理的に試合ができるようになった。もちろん、「最後に勝負を決めるのは精神力」であることを承知だ。精神力は練習で追い込まなければ培うことができない。「きついときにどれだけ頑張れるか。ひたすら追い込む」。こうした日々の積み重ねが自信の裏づけとなる。これから先は未知の領域だ。「代表最終選考会で勝てばオリンピック出場の夢がかなう。これまで支えてくれた方のためにも優勝しか考えていない。決して不可能なことではない」と、テコンドー人生最大の挑戦に悲観も楽観もしていない。夢舞台の切符を確実に奪うために、相手を徹底的に研究し、得意の高さを生かした前足上段蹴りに磨きをかける。本人は多くを語らなかったが集中力を研ぎ澄まし決戦に備えている。「ゾーンに入ると相手の動きが予測でき、コーチの声だけが聞こえる」。そんなときは前足上段蹴りが鋭く、しなやかに決まる。何度もカットとステップを繰り返す体力と、一瞬の隙を突く集中力を持続さえるために、気の遠くなるような練習を重ね、コートに上がる。「自分が一番強いことを証明したい」。その意思を示すように長野の瞳に輝きがましている。

 

長野聖子の哲学

自分に克つ

プロフィール

生年月日 1995年9月1日
出身 大分県中津市出身
身長/体重 170cm
成績
  • 2013年 第6回全日本ジュニアテコンドー選手権大会 優勝
  • 2017年 第10回全日本テコンドー選手権大会  優勝
  • 2018年 第11回全日本テコンドー選手権大会  優勝
    第23回アジア選手権大会 3位
  • 2019年 東京五輪テストイベント  5位