ロードレーサー

黒枝 咲哉 Saya Kuroeda

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プロフィール

生年月日 1995年9月28日
出身 大分市
身長/体重 165cm/58kg
成績
  • 2013年 全日本ロードジュニア 優勝
  • 2016年 全日本学生選手権トラック 男子マディソン 優勝
  • 2016年 国体 ケイリン 優勝
  • 2018年 Jプロツアー維新やまぐちクリテリウム  優勝 
  • 2018年 おおいたクリテリウム(UCI認定) 優勝
  • 2019年 さいたまクリテリウム スプリント 優勝

2019.11.07

異色のロードレーサー、わが道を行く

自転車ロードレース界でその名が知れる黒枝兄弟の兄・士揮と弟・咲哉。脚質は同じスプリンターで、爆発的なスピードを持つ。シマノレーシングに所属する咲哉は、プロ1年目となる昨年、日本最高峰のサイクルロードレースシリーズJプロツアー(JPT)の第19戦「JBCF維新やまぐちクリテリウム」で初勝利を飾った。2019年10月時点でJPT個人ランキング23位につけている注目株だ。

 

音楽の道から自転車競技へ

自由奔放―。金髪の見た目もそうだが、歯に衣着せぬ発言、ポジティブな思考などが咲哉の魅力だ。全ての面で先をゆく4歳上の兄を持つ弟は、周りから兄へのライバル心をあおられるが、「勝負になったら敵なので燃える。ただ、僕は弟で得したことの方が多い。兄が頑張って敷いたレールをそのまま苦労なく走っているのだから」とサラリと言い放つ。公の場では「ライバルであり、親友に近い存在でもある」というが、「絶大な信頼を寄せる存在」というのが本音だ。大学進学、プロ入りなど、人生の岐路に立ったときに相談したのは兄だったという。

咲哉が兄の後を追って自転車競技にのめり込んだのは高校から。兄は小学1年で自転車の道を選んだが、その頃、咲哉は音楽の道を志した。スポーツとは無縁、小学1年からピアノを続け、中学の頃は吹奏楽部でパーカッション、トロンボーンを奏でていた異色の経歴の持ち主だ。「父と兄が各地である自転車のレースに参加するので、母と一緒に付いていった。たまにレースに出ていたが、僕に取っては家族旅行だった」と述懐する。

 

音楽の道を選んだのは咲哉の優しさだったのかもしれない。「父と兄は自転車に没頭し、僕まで自転車を選んだら母が寂しいと思った。だから僕は母が好きな音楽を選んだ」。小学5年のときにピアノのコンクールで入賞し、九州大会に出たときの母の喜ぶ姿が忘れられない。高校でも音楽を続け、音楽大学に入学すれば母も喜ぶと思っていたが、「どうしても音楽で飯を食えるイメージがつかなかった。音楽は趣味で終わるような気がした」。母に申し訳ない気持ちは強かったが、「何か他の道を考えなければと思っていたら兄が自転車で日本一になっていた。兄ができたのだから自分もできる。“変な自信”だけで自転車を始めた」。

 

とにかくポジティブ オンリーワンの道へ

運動神経は良かった。自転車競技の才能があることは周囲も知っていた。自転車競技の強豪として知られる日出暘谷高校(現・日出総合高校)から誘いを受け、入学すると自転車部に所属。兄と同じレールを走った。「兄に負ける気はしなかった。日本一になってひと泡吹かせてやろうと思った」。自信が確信に変わるまで3年の時間を費やしたが、負けず嫌いな性格も幸いし、爆発的な成長曲線で記録を伸ばした。高校3年時には地元で開催された全日本ロードジュニアで優勝、全国高校総体4km速度競走で優勝し、世界選手権ロードへ出場した。

 

兄譲りのスピードを武器に、天性の瞬発力とバネで厳しい山岳コースも上れるスプリンターとなった。咲哉に自転車競技の魅力を尋ねると、兄と同じような答えが返ってきた。「競技の間に景色を見ながら走るのが楽しいという人は多いが、僕は人間が走ったりするのでは得られないスピードがたまらない。ゴール直前のスプリントが楽しい」。勝負師の兄との違いを強いて挙げるなら、勝負を楽しむことができることだ。勝っても負けても次のレースに気持ちを切り替える。「キツいことは忘れる。楽しいことの方が記憶に残る」と常にポジティブだからこそ、いいときの走りのイメージだけでペダルを漕ぐことができる。咲哉の頭の中は、自分が入賞したときの記憶しかアップデートされない。常に勝っているイメージしかないのだ。

 

兄の勧めもあり、同じ鹿屋体育大学に進学した。スランプを経験し、伸び悩み、大学で主だった成績は残せなかったが、「漠然とだけどプロになれると思っていた」。努力が実り、プロ契約に至った。結果が全てのプロの世界は厳しい。毎年が生き残りを懸けた勝負となる。それでも、「自転車だけのことを考える生活は楽しい。不安はない。(成績が)下がることなんて考えてない」とポジティブを貫く。「成績が悪かったら母から音楽を続けとけば良かったのにと言われるでしょ。母のために勝つ」と軽口をたたいて笑わせたが、実は本心なのかもしれない。 当面の目標はオリンピック出場となるが、それ以上に目指すものがある。「ファンから愛される選手になりたい」。咲哉らしさが凝縮された目標だ。

黒枝咲哉の哲学

ファンから愛される選手になる