2019.10.11
闘争本能みなぎる勝負師が挑む集大成の1年
東京五輪を競技人生の集大成と位置付けている。フェンシング女子エペのナショナルチームで活躍する大石栞菜は、選手として体力、技術、経験、全てにおいてピークを迎えようとしている。「この時期(東京五輪1年前)にピークがきたのは、これまでの練習の成果だと思っている」と手応えを感じずにはいられない。小学生の頃から日本トップ選手として活躍し、フルーレからエペに転向して一気に世界の扉が開いた。「今はとにかく楽しい。これまでの競技人生の全てを出したい」と、26歳は胸を高鳴らせている。
超頑固者の流儀
2019年5月に発表された国内ランキング「女子エペ(シニア)」では、トップから4位にランクダウンしたが、気にする様子はない。コンディションは良く、心技体が充実。これから正念場を迎えるランキング争いに影響を与える全日本選手権やワールドカップなどの国際大会で結果を出せば、自ずと東京五輪の出場は見えてくることを理解している。そして、そのために何をすればいいのかも分かっている。
大石は“頑固”だ。それも超がつくほどのレベルだ。練習のアップひとつとっても納得しないと動かない。「なあなあで練習するのは嫌だ。何を何のためにするのかハッキリしなければ意味がない。納得できないとする必要がない。でも納得すればひたすら頑張れる」。相手がナショナルチームのコーチであろうと、言い争うこともしばしば。「扱いにくい選手だと思います」と自覚している。こだわりが強いからこそ、自分を追い込むことができる。飛び抜けた集中力と勝利に対する執着心が、大石を成長させた。
エペ転向で闘争本能が再火
小学1年でフェンシングを始めた大石は勝気な女の子だった。腕っ節が強く、わんぱく。「小学校の入学式の次の日に教壇の前で男の子と殴り合いのケンカをした。クソガキでした」と武勇伝を語る。幼い時からスポーツ万能。運動会ではリレー選手として活躍し、球技大会ではヒーローだった。大分豊府高校での3年間、体力測定は全てトップ。フェンシング以外の競技を選んでも大成していたかもしれない。それでもフェンシングを続けた理由は、「剣を使って争うなんて日常にはない。それが面白い」と大石らしい。身体能力と闘争本能の高さを大いに発揮し、小学5年生で日本一を経験。その1年後には国際大会に出場する選手となった。
中学、高校と個人での日本一はなかったが常に上位入賞、団体優勝など一定の成果を挙げた。法政大学進学後も競技を続け、ナショナルチームの一員として国際大会にも出場したが、カテゴリーが上がるにつれて勝てなくなり、行き詰まった時期があった。気持ちが落ち、惰性で競技を続けていた大学4年時にエペへの本格転向を勧められた。「フルーレに比べ競技人口が少ないし、チャンスと思った」と承諾した。これが転機となった。エペはフルーレと異なり頭からつま先まで全身が有効面となる。フルーレのように攻撃権はなく、攻守一体。スピーディーで変化の多い試合展開にひかれた。何よりエペは決闘そのものから発展した競技といわれる。くすぶっていた闘争本能に火が灯ったと同時に、心境の変化も現れた。
勝利への強い執着
フルーレを専門としていた時は、アタック重視の超攻撃的なスタイルを貫いていたが、攻守一体のエペでは相手との駆け引きがより重要になる。「一直線上のピストの上で相手との距離を保つ。引いてダメなら押す。プレッシャーをかけ解放された瞬間の隙を付く。経験を積めば積むほど心理戦やゲームメークの面白さを知った」。猪突猛進型から「相手や自分のその時の調子によって変える。バランス型になった」。勝負師であり、根っからの負けず嫌いが幸いし、これまで以上にフェンシングに向き合った。ナショナルチームに所属すると対戦相手の情報はアナリスト(データを収集し分析する専門家)から提供されるが、頑固者の大石は「自分の目で見て感覚を優先し、その後にプラスで入った情報を確認する」。自分で納得して得たことが血となり肉となった。
17年のアジア選手権でエペ団体3位、18年アジア大会エペ団体3位を皮切りに国際大会で結果を出し、19年の世界選手権ではエペ団体で11位。着実に東京五輪に向けて力をつけている。「これから出る全ての大会が最後になるかもしれない。東京五輪に出るためにしんどい練習もしている。パリ五輪は考えていない。東京で全てを出し切る」。座右の銘である「なせば成る」の精神で競技に取り組んできた。これから始まる東京五輪代表レースへの重圧はない。文字通り真剣勝負を心待ちにしている。「五輪に向けて勝っていかなければいけないシーズン。気持ちを高めて取り組みたい」と話す大石自身が誰よりも勝利に飢えている。
大石栞菜の哲学
自分が納得してこそ血となり肉となる
プロフィール
生年月日 | 1992年10月10日 |
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出身 | 大分市 |
成績 |
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