空手形

森田 考博 Takahiro Morita

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運命を変えたカヌーで恩返しを

パドルで水面をかき、前に進む。そのスピードはカヌーにモーターがついているのではないかと思うほど速い。森田考博はこの1年で力強さと伸びやかさが増し、大きく変貌を遂げようとしている。「下半身を強化し、全身の筋肉を使えるようになってきた、以前より楽にスピードが出る」と確かな手応えを感じている。生まれ育った故郷で感謝の気持ちを忘れず、漕ぎ続ける。

 

鍛え上げられた全身の筋肉こそが武器

「カヌーで人生が変わった。これまでお世話になった方々のために恩返しをしたい」。カヌースプリントカナディアンシングルの森田考博は大学卒業を機に帰郷。日本オリンピック委員会(JOC)が実施するトップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」を活用し、生まれ育った大分で競技を続け、今も第一線で活躍している。

 

カヌー競技といえば、日本人初の五輪銅メダリスト・羽根田卓也が専門とする激流を下りながらゲートを通過する「スラローム」をイメージするが、森田が専門としているのは「スプリント」だ。湖など静止面に設けられた直線コースを漕ぎ、そのタイムで順位を競う。パドルの両側に水かきがついているカヤックに比べ、カナディアンは片方にしかついていないため、バランス感覚と体幹の強さが求められる。

カヌーは見た目以上にハードな競技だ。足が使えない中、水上でバランスを取り、体全体の力を使ってパドルを漕ぐ。艇に乗る森田を見ると鍛え上げられた上腕二頭筋に広背筋、隆々たる筋肉に目が行くが、バランス感覚と体幹の強さを支える下半身こそが爆発的なスピードを生み出す源となっている。「足腰がしっかりしていないとパドルを前に運べないし、水をつかんでも強く引くことができない。カヌーは全身の筋力が必要なスポーツ」。そう語る森田の全身を見ると筋肉の鎧に包まれているのではと錯覚してしまう。「筋力をキープするのは大変」と練習後はジムに通い、メンテナンスを施しながら自分自身の肉体にマイナーチェンジを繰り返す日々を過ごす。

 

中学まで野球小僧だった森田は、入学した楊志館高校でカヌーと出合い、運命が変わった。「野球をしていた頃は筋肉系のけがが多く、体を鍛え直すためにはカヌーがいいと中学の恩師に勧められた」。入部したその日にカヤックに乗り、監督や先輩に「筋がいい」と褒められた。単純明快な男はすぐにその気になった。翌日には「目標は日本一」と豪語し、カヌーの虜になった。「何の自信もなかったけれど日本一になれると確信があった」と振り返る。これと決めたら猪突猛進。白球を追っていた日々からパドルを漕ぎ続ける毎日に変わり、みるみるうちに実力をつけていった。全国大会でも上位に入る先輩たちと競い合ううちに、自然とレベルも高まった。

結果を出し続け、五輪の道を切り開く

2013年に北部九州インターハイ200㍍優勝。16年に日本選手権200㍍優勝、17年には全日本学生カヌー選手権200㍍優勝、同年の国体成年の部200㍍優勝ー。各世代の大会で積み重ねたタイトルの数が実力を物語っている。
全て順風満帆だったわけではない。社会人1年目の18年度は、仕事と練習の両立に戸惑った。それまでは学業があったにせよ、朝から晩までカヌー漬けで練習時間を確保することは難しいことではなかった。「仕事をしながら競技を続ける難しさを感じた」。オンとオフの切り替えができず、心に余裕がなくなっていた。「できないことを悔やむより、できることを最大限に生かすように考えを変えた」。最近はようやく仕事に慣れ、要領をつかんだことで練習に集中できているが、大学時代に比べ練習量は半分程度という。

 

それでもカヌーを辞めないのは、感謝の思いが強いから。「カヌーをしていろんなものを教わった。やんちゃだった僕を人間として成長させてくれた」。振り返れば受験や就職活動を含め、カヌーのおかげで居場所があった。「自分が活躍すれば後輩たちも続く道ができる。これまで多くの方々が競技を続けられる環境をつくってくれた恩返しをしたい。それには結果でしか報いることができない」

 

平日は高校生と一緒に汗を流し、土日祝日も高校生と同じメニューをこなした後に、一人で考えたメニューを黙々と行う。指導する者もいなければ、管理する者もいない。孤独な作業が続くが、結果を出すことで注目度が集まり、普及、育成にも弾みがつくと考えている。
次の大きな大会は日本選手権と国体だ。追い上げ型の森田にとって「スタートが肝となる。これさえうまく行けば自信はある」。国内大会で結果を出し、国際大会への出場権を得て、夢の五輪出場を描く。「筋肉量や技術は伸びしろがある。僕にはやらなければいけないことがまだまだある。それがうれしい」と屈託なく笑った。

森田考博の哲学

感謝の気持ちを忘れず、結果で報いる

 

プロフィール

生年月日 1995年6月1日
出身 大分市
成績
  • 2016年 日本選手権200㍍ 優勝
  • 2017年 全日本学生カヌー選手権200㍍ 優勝
    国体成年の部200㍍ 優勝