空手形

一丸 尚伍 Shogo Ichimaru

04
 

2019.08.01

限界を超えると、その先が見えてくる

大学在学時に自転車トラックレースの日本代表「ナショナルA代表」に選出されてから第一線で走り続ける一丸尚伍。本格的に自転車競技に打ち込んだ高校時代から、厳しい練習を重ねて自分の限界を超えていく作業を続けている。病に苦しみ、生死の間をさまよったこともある。自転車競技を続けられる奇跡を噛み締め、今できることを楽しんでいる。

 

生死をさまよい、たどり着いたのは楽しむこと

チーム・パシュート(団体追抜競争)の選手として、2020年東京五輪、その4年後のパリ五輪でのメダルを狙う。一丸尚伍は「世界で戦いたいと思ってやってきている。そうなるとナショナルチームにいるのは当たり前だし、そこで戦っていかないとその先はない」と力強く語った。1年後のオリンピックイヤーは28歳となる。「個人差はあるけど自転車のピークは28〜32歳。ちょうどいいタイミングで東京五輪がある。巡り合わせを感じる。そこに照準を合わせて自分もチームも強くなりたい」

 

燃え尽きることのない情熱は、楽しんでこそとの思いがある。「楽しくないと続けられない。調子が悪いときはきついけど、ここを耐えれば、あの時があったからこそと思える。だから楽しむ」。この思いは自転車のサドルにまたがった時から変わらない。一丸が自転車競技に出会ったのは小学1年生のときだ。祖父が自転車競技をしていたことから、自転車レースに出るようになった。ただ、当時は水泳がメインで、小学5年生からはトライアスロンにハマる。とにかく体を動かすことが大好きだった少年は、中学を卒業するまで走って、泳いで、ペダルをこぎ続けた。

自転車競技の名門であり08年の大分国体で好成績を目指す日出暘谷高校(現・日出総合高校)から声が掛かったのは、トライアスロンを続けるか、陸上、水泳、自転車から一つに絞るか迷っていた頃だ。15歳の春に親元を離れ、入学すると自転車競技部に所属する。高校時代の思い出は「ひたすらきつかった」。希望に燃えた一丸を待っていたのは、規律を求められる団体生活の窮屈さだけではなかった。チームに集まった優れた選手たち。 同級生には黒枝士揮(現・TEAM BRIDGESTONE Cycling)や六峰亘(現・TEAM BRIDGESTONE Cycling、ロードレースコーチ)ら、後に全国大会で好成績を残した選手が多く、身体能力の高さに驚いた。歯をくいしばるほどの練習を仲間と切磋琢磨しながら壮絶な練習にも耐えた。

 

練習は厳しかったが費やした時間に比例してタイムは伸びた。土台を築き、飛躍の時期を迎えたときに不幸が襲う。高校2年の夏、原因不明の高熱が3週間ほど続いた。地元の病院では処置することができず、大学病院に運ばれたときは生死をさまよった。「全身性エリテマトーデス」と診断されたが、発熱、全身倦怠感などの症状と関節、皮膚、内臓などの臓器障害で2カ月の入院を強いられる。紫外線が原因の病気のため、医師に自転車競技を続けることは困難だと宣告されたが、「自分には自転車しかない」と我が道を貫いた。「あれからかな。今できることを楽しもうと本当に思えるようになったのは」

オールラウンダーとして日本代表に欠かせない存在

退院後は日焼け止めが命綱だった。夏も長袖長ズボン、アームカバーに加え、ネックカバーも付けて自転車に乗った。思うような練習ができず、高校時代の最大の目標だった大分国体は出場できなかった。目立った成績を残せなかったが、自転車競技は続けた。「コツコツと練習できたのは結果を出せなかった悔しさと、お世話になった方々への感謝と恩返しをしたい」との思いが原動力となる。不断の努力が報われたのが全日本アマチュア自転車競技選手権大会で2年連続3位となり、12年に日本代表の強化指定選手に選出されてからだ。

 

ロード(長距離)をベースに、短距離、中距離も走れる脚質を持つ一丸は、オールラウンダーとしてチーム・パシュートで重宝された。1チーム4人の選手で構成され、先頭を交代しながら4kmの距離を走るチーム・パシュートは、選手個々のスピードと技術に加え、チーム力が勝敗のカギを握る。「与えられた役割を柔軟に対応できるのが自分の持ち味」と本人が語るように、メンバーが入れ替わっても長く日本代表に定着できているのは、現状を受け入れ、最善の方法を見つけ、自分の力を引き出す修正力にある。13年からアジア選手権に出続け、18年には悲願の金メダル獲得に貢献。17年のワールドカップとなる準優勝の立役者となった。

 

20年東京五輪まであと1年余り。日本代表に選ばれている一丸に対し、周囲の期待は大きくなる。「これだけ長く競技を続けていると応援してくれる方も増え、プレッシャーを感じないといけない立場となった。でも、自分が自転車競技を好きで楽しくてここまで続けたので、自分が楽しむことが大事」と気負いはない。「東京五輪ばかりを意識し過ぎると、今やらなければいけないことが見えなくなる。今まで通りコツコツと積み上げたい」 心臓と神経、全身の筋肉がフル回転で動き続ける自転車競技は肉体の潜在能力を最大限に掘り起こすスポーツといえる。「終わりがないから楽しい」と一丸は言う。限界を超えると、さらにその先が見えてくる。練習を積み重ね、何度も繰り返すことで肉体も精神も成長する。成長する自分を実感できる喜び、すなわち生きていることへの感謝が一丸を強くする。

一丸尚伍の哲学

自分が楽しむことが大事

 

プロフィール

生年月日 1992年1月4日
出身 福岡県北九州市
成績
  • 2017年 ワールドカップ 銀メダル
  • 2018年 アジア選手権 金メダル
  • 2019年 国民体育大会 1kmTT 4位
所属
  • 2019-21年4月 シマノレーシング
  • 2021年5月-22年3月 日本競輪選手養成所
  • 2022年4月 日本競輪選手会 大分支部